一筋縄ではいかない


 レルカーに行くときだけではなく、城の中や風呂にまでくっついてこようとするカイルに対して、オロクは心底憎々しげな顔で、今すぐどこかへ去れ、と言った。
「ひどいなー、オロクさん…。特に表情と言い方が」
「ふん。大体、男に付きまとわれて、いい気分のはずがないだろう」
「じゃあ女の人だったらいいのー?」
「そういうことでもない」
 オロクはそっけなく言った。カイルに背を向けて、さっさと行ってしまう。待ってよオロクさん、といってカイルもそれに続いた。
「ねえオロクさん、何にだったら付きまとわれてもいいの」
「付きまとわれること自体が嫌だ」
 オロクはそう言って眉をひそめた。
「そうなんだー。まあ、おれは、付きまとうけど」
 けろりと笑うカイルに対して、オロクは再び、憎々しげな顔を向ける。
「まったく、なんなんだ、お前は……」
「なんなんだ、って。……あれー、ほんとなんなんだろう?おれって、オロクさんのなんなんだろうねー?」
「おれに聞くな」
 オロクは思わず苦笑する。カイルもあはは、と笑った。

「……でもまあ、そうだな。おれが、側にいてもいいと思うような人間はな……」
 オロクが突然そう口を開いたので、カイルは目を丸くした。オロクの前に立ちはだかり、人間は?と勢いよく聞く。
「……すなおで、聞きわけがよく、忍耐強く……」
「うん、うん」
「賢く、強く、有能で、」
「うん……」
「静かで、おれの言うことは何でもよく聞く、」
「……」
「そんな下僕だな」
「下僕なんだ!」
 カイルの突っ込みにオロクは顔を崩して笑った。めったに見ることのない幼い笑顔だった。カイルが内心でどぎまぎしていると、
「冗談だ」
と、オロクは笑い混じりに言った。
「冗談きついよー」
 カイルが言うと、オロクは機嫌よく笑う。そしてふっとその笑顔が穏やかになった。カイルは、はっとする。オロクは静かに口を開いた。
「ほんとうは、一筋縄ではいかない友達がほしい」
 オロクの目は静かな海のようであり、輝く星のようでもあった。カイルはその目に引き込まれる。
 オロクもまた、そんなカイルをまっすぐに見ながら、
「友達がほしいんだ」
と、もう一度言った。

「オロクさんって……」
「ああ?」
「けなげだよねえええ」
 カイルは泣きまねをしながら、オロクをぎゅっと抱きしめた。ぎゅっと、では済まない。カイルの全身全力でもってオロクの肩やら頭やら腰やらを、力まかせに抱きすくめた。
「痛い、放せ、馬鹿」
「放すもんか!放すもんかー!」
 冗談なのか本気なのか分からない調子で、カイルは叫んだ。オロクはやれやれ、という風に目を細め、体の力を抜く。くたりとカイルにもたれかかって、だがこんなにうるさい友人は嫌だ、とこっそり苦笑した。

おしまい


この二人の会話って面白そうですよね!
2006年3月26日 保田ゆきの






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