ザハークは死んだよ、とオロクさんに言うと、オロクさんは、突然ナイフで刺されてむりやり心臓をえぐり出されたような、ひどく痛々しい表情で、それでも笑って「そうか」とひとこと言った。そうやって笑ってるけどえぐられた胸から血がぼとぼと溢れているよ、とおれは思いながら、「なんだかあっけないね」と言った。
「まるで化け物みたいになって死んだんだよ」
「そうか」
「あそこにいたみんなに、馬鹿だなあって思われながら死んだんだ」
「そうか」
 言いながら、おれはなんて意地悪なんだろうと自分で思う。下らないなあ、死んだ人の悪口を言うなんて下衆だな。しかし口が勝手に動いてしまう。ザハークに対する最後のうさばらしだ。死人に口がないのをいいことに。
「オロクさん、悲しい?」
 ずるい質問だった。否定するのを分かってて、否定してほしくておれは言っている。悲しくないだろ。悲しいなんていえないだろ。そう思っている。
 望みどおりオロクさんは、悲しくないと即答した。しかし続けて、
「だが、むなしい。おれは生きる意味をなくしたような気分だよ」
 呟くようにそういうのだった。




 ザハークが死んだ(殺した)日の夜、おれは夢を見た。
 どこでもない場所、あちこちがまぜこぜになったような場所に、オロクさんとザハークがいた。オロクさんはおもむろにザハークに火をつけ、これはレルカーの炎、とつぶやいた。そして全身火だるまになったザハークを抱きしめた。オロクさんはザハークと一緒に、激しい炎につつまれながら、
「おれは、きっと、ずっとこうしたかったんだな」
と、優しい声でつぶやくのだった。
(なんてひどいのろけ話だよ)
 おれは二人の様子をどこかで見ながらそう思った。まるっきり蚊帳の外。部外者である。
(ああ、おれもまぜてくれないかなあ)
 しかしどうあがいたって、悔しがったって、妬んだって、それは二人だけの世界だった。


2006年5月23日 保田ゆきの






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