手をつなごう



 手を貸すとは言ったものの、みんなのあまりの強さに唖然となった。いや、きっと僕がとくべつ弱いんだろう。みんながなるべく僕を前に出さないように気を使ってくれているから、何となくそう悟った。
 敵にたいした傷を負わせることもできず、自分自身はひどく打たれ弱い。きっと足を引っぱっているだろうな。それを感じるたびにため息でも一つ吐きたい気分になった。
「スノウ、行こう」
 いつのまにか隣に立っていたナギが僕の肩に手を置いた。
「行く……?」
「あそこに居るむささびが、油断してる。二人で囲んで一気に片してしまおう」
「あ、ああ」
 慌てて頷くと、ナギは少しだけ笑った。そしてさっさと行ってしまう。その背中を追いかけて、油断しているらしいむささびの背後に回った。ナギに促されるまま、剣を振り下ろす。
 よろめく敵にナギがとどめの一撃を喰らわせた。敵はもう動かなくなった。
 遠くから、
「ナギ、スノウと一緒に手を貸してくれ!」
という声が聞こえた。リーダーのキリルがナギと僕に向かって手を振っている。
「わかった」
 ナギが応えた。
 そして僕の目を見て、行こう、と促した。何だか君に促されてばかりだなあ。皮肉ではなく、素直にそう思って、少し笑いそうになった。



 戦闘が終わったあと、傷ついた仲間の治療をしたり、剣の汚れをぬぐったりしているみんなの間をすり抜けて、ナギがこちらへやってきた。
「ナギ……おつかれ」
「おつかれ」
 ナギはゆっくりうなずいた。そのまま僕の目をまっすぐに見て、
「スノウは成長が早いね」
と言った。あまりに率直だったので、面食らってしまう。
「そ、そうかな?」
「うん。もう一人で前線に出ても問題ないと思う」
 そう言うなりナギは、周りの様子をうかがうためにきょろきょろと首を回した。それから、僕の手をそっと握る。
「スノウが来てくれてよかった」
 そんなことを言うのだった。思わず後ろにのけぞりそうになる。
「でも、僕、ぜんぜん役に立ってないよ」
「それはこれからだよ。そうじゃなくて、スノウが来てくれないと、参ってしまうところだった」
 ナギの指は冷たい。手袋のざらざらした感触が手のひらに伝わってくる。
「参る……?」
「そう、僕がね。参ってしまうよ。ただ戦う毎日なんて」
 この前まで戦いの渦中に身を置いていた人間の言葉とは思えなかった。思わず目を丸くすると、ナギは小さく笑い、「こんなことキリル君には言えないけどね」と言った。
 どうしていいのか分からず、何となくナギの手を両手で包んだ。ナギは少し驚いたようだったが、やがてそっと目を伏せた。
 そういえばこの手に罰の紋章が宿っているのだと思い出す。ナギのことを宿主と認めた紋章。真の紋章は不老と不死をもたらすと、前にナギが言っていた。もう自分の命は削られないけれど、かわりに普通に生きることも出来ないのだ、と。
 じゃあ君、僕がいないと参るなんて言って、僕が死んだ後はどうするんだい。
「……さ、僕たちも行こう。みんなの支度が整ったようだよ」
 そういうと、ナギはゆっくりと顔を上げた。
「そうだね」
 行こうか、とつぶやいて、ナギは手を離し僕の隣に並ぶ。キリルがまた、こちらに向かって手を振った。手を振り返すナギは、いったいどんな気持ちなのだろうか。なんとなく心細い気持ちになって、もう一度だけナギの手を握りしめた。
 ナギは何も言わなかった。


END


2005/11/05 保田ゆきの








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