こんな思いは

1.のん気な夜

 ぱちぱちと爆ぜる焚き火を見ながら、トリスタンさんとキャリー君といっしょにとりとめのない話をしていた。やれ明日の天気はどうだの、次の町は何がおいしいだの。
 私達がこんなにものん気なのは、この戦いに主体的な目的がないからだ。
 トリスタンさんも、キャリー君も、リノ王に言い付かってこの戦いに加わっている。私だって少なくとも、紋章砲をどうにかしたいから、という理由では戦っていない。
 だからのん気なのだった。
「やっぱり夜になると、冷えますねえ」
 キャリー君がそういって、腕をさすった。
「あの……向こうで、誰かがお湯を沸かしていましたが…ゴホッ…、少し分けてもらって、温まるものでも淹れましょうか…?」
「ああ、それならいいですよ、私が行きますから!」
 トリスタンさんの言葉にキャリー君はにっこりと微笑み、さっと立ち上がって行ってしまった。私の目から見ても彼女は、よく働く快活な女性である。ただ、こういうときは素直にトリスタンさんに頼ってもいいのに、とは思うが。
 残されたトリスタンさんと二人で、ぼんやりと火を見つめた。この人とも長い付き合いだな、とふと思う。本来ならこんな健康体とは関わる理由もないが、彼の思い込みのおかげで、というよりも思い込みのせいで、ずいぶん長いこと医者と患者という関係が続いている。
 それもいつか終わりが来るのだろうか。
 もちろん、そうであってほしいが。
「……先生、次の町に着いたら、なにをしますか……」
 トリスタンさんのひっそりした声がそうたずねた。
「そうですね。道具屋をのぞいて、珍しいものがないか見て……。あとはのんびり見物でもしましょうか」
「ああ……いいですね、ゴホッ……」
 そのとき、がた、と薪がすこし崩れた。火がよりいっそうぱちぱちと爆ぜる。キャリー君が戻ってくるまで、そんな火をじいっと見つめ続けた。
 なんとなく、トリスタンさんの「いいですね」という言葉が耳にひっかかっていて、うなじのあたりがむずがゆかった。

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