荒垣について、一番に思い出したのは、美紀がまだ生きていた頃のことだった。そのころの真田は(真田という名前ですらなかったが)引っ込み思案で、友達より美紀と遊ぶことが多かった。
 ある日、庭に出ると、同じ年頃の子どもたちが野球をしていた。荒垣もその中にいた。真田は声をかける勇気が出なくて、美紀の手を握り、そっと引き返そうとした。
 すると遠くから、
「アキ!お前も入れよ!」
と、荒垣が大声で呼んでくれたのだった。戸惑っていると、早く来い!と更に大きな声で言われる。美紀は、ここで見てる、と地面に座り込んだ。
 真田は少しはにかみながら、荒垣のもとへ走った。

 好きだった。大好きだった。
 シンジという名の友達が、心底、だれよりも好きだった。
 感謝していたし尊敬していた。
 もちろん喧嘩もしたし、仲たがいもした。
 でも、それでも二人は一緒にいたし、お互いのことをいつだって考えていた。


 どうして忘れていたのだろう。
 あんなにも好きだった人のことを、
 こんな形で裏切れたのだろう……








 そういった紆余曲折を経て、いま、天田と真田は一緒に荒垣の墓参りに来ていた。手を合わせ、ずっと目を閉じている真田を見て、天田は言う。
「僕は、怒ってましたけど、荒垣さんは怒ってないですよ。こんなことで怒る人じゃあ、ないですよ」
「……ああ」
 真田は目を開けた。
「怒ってないって、言ってるのが聞こえたから」
「……?」
 天田の不思議そうな視線を受け流し、真田は立ち上がった。
「なんだか、今回のことで、自分の弱さを改めて知った思いだな」
「そうですね。僕も、先輩がここまで脆い人だとは思ってませんでした」
「……。あと、お前を怒らせたら怖いことも知った」
「さらに付け加えると、僕の怒りは尾を引きますから」
 天田はふ、と息だけで笑った。真田も鼻を鳴らして苦笑する。空は見事な快晴だった。まあうまくやれよ、と、荒垣に言われている気がして、真田は胸が熱くなった。




なくしたものは”倍になって戻ってきました、
おしまい。

2007年2月25日 保田ゆきの

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