純粋は正義 「電車だーっ!街だーっ!おでかけだああっ!」 電車から降りたとたんクマはそう言って万歳をした。すぐさま花村がぶぁっかやろう!と怒鳴ってやめさせる。まったくめげないクマは、嬉しそうに周りを見渡し、息を吐いた。 「すごいクマ、これぞ都会クマねー」 「都会まではいかねーだろ。デパートとショッピングモールがあるくらいで…」 「あ、あれなーに!?」 呆れる花村の言葉をさえぎって、クマはどこかへ走っていってしまった。だから待てって!花村も必死で追う。やっと追いつくと、クマは噴水のモニュメントに目を輝かせていた。 「きれー…」 「まあ、たしかにきれいだけどさ、別にめずらしくはない…」 「あっあれはいったい!?」 またしても花村の言葉をさえぎり、クマは走っていった。花村はため息をつく。だからあいつはクマなんだ、と理不尽な怒りがふつふつと湧いてきた。 それから何度もクマに振り回され、花村はへとへとになった。クマの手を握って、「頼むから、もう、勝手に走るんじゃねーぞ…迷子になっても、知らねえかんな…」と力なく言った。 「迷子!?それは怖いクマ……」 クマはようやくおとなしくなる。 「やっと分かったか。ったく、ちょっと買い物に来たくらいで、はしゃぎすぎなんだよお前は」 花村はため息をついた。クマはそんな花村の手を握り返し、 「ね、ね、ヨースケ、どこから行く!?」 と無邪気に笑った。さっきのしおらしい態度はどこへ行ったのか。 「おまえ…元気だなあ…」 花村は苦笑する。それを聞いたクマは、クマはいつでも元気百パーセント!と、白い歯を見せて笑った。 「ね、見て、あの二人」 「かーわいい。なんで手つないでんのかな?」 そんな声が聞こえてきて花村は振り返る。大学生くらいの女二人が、こちらを見て笑っていた。花村は急に恥ずかしくなった。顔が熱くなり、とっさに手を離す。 「ヨースケ?」 クマが不思議そうに花村の顔を覗き込む。花村はクマの目を見ずに、買いもん行こうぜ、とさっさと歩き出した。 その日の夜。 クマは部屋の中で、今日買ったものを並べていた。雑貨や服、食べ物、おもちゃなど、色んなものが無秩序に並んでいる。クマは一つひとつを手にとって眺めては、機嫌よく笑っていた。 「今日は、本当にたのしかったクマ!」 ねー、ヨースケ。クマがそういうと、花村は、ああ、と上の空で返事をした。 「ヨースケ、なんだか元気ないクマね」 「ああ…」 「……」 クマは手に持っていたおもちゃを床に置く。 「ヨースケ…怒ってる?クマ、無駄遣いしすぎた?」 「ばか…そんなことないって」 花村はちいさく笑った。クマはほっとしたように息を吐く。 「いや、俺はむしろ、おまえに謝らなきゃいけねーんだよな。ほら、俺、いきなりお前の手はなしたじゃん」 「花の女子大生に、かわいーって言われたとき?」 「そうそう。なんだよお前、聞こえてたのか?」 「だって、ほめられてクマは嬉しかったから」 クマは笑う。屈託のない笑顔だった。花村はますます眉根を寄せて渋い顔をする。 「嬉しかった…ね」 「うん。クマの美貌はー、全国区なんだーって」 「お前はいいなあ、幸せそうで」 馬鹿にする風でもなく、花村はしみじみとそう言う。 「俺はさ、今日のことだけじゃなくてさ、なんつーかいつもいつも、周りの目とか、言ってることとか、すげー気になんの。ひそひそ話されるともうほんと駄目でさ。怖くて何も出来なくなるんだよな…」 だからお前がうらやましいよ。花村はぽつりと呟く。クマは難しい顔をした。 「うーむ…むむむ」 「何だ、難しかったか?」 笑う花村に、クマは、なるほど!と手を打つ。 「分かったクマ。ヨースケは周りのみんなの目が気になる。つまり、いちゃいちゃするのは、二人っきりのときにしよーぜってことクマね!」 「おおおお前とつぜんなに言ってんだよ!」 「うふん。ヨースケの照れ屋さーん」 クマは笑って、花村の頬にキスをした。うわああ、と花村は頬に手を当てて肩をすくめる。 「お前って、本当に恥ずかしい奴な!」 「ヨースケが元気だとクマも嬉しい!」 「だーかーらーそういうこと面と向かって言うかあ?フツー…」 花村は苦笑いする。だが、その顔からはもうさっきの暗さは消えていた。クマもうれしそうににこにこ笑っている。その顔をみていると、まあいっか、と思えてきた。我ながら単純だと思う。 「俺達、足して二で割ったらちょうどいいかもなあ」 「じゃあ、じゃあ、足してみる?今夜…☆」 「もおいいよお前!!!恥ずかしいから!!!」 花村はクマの頭を思い切り小突いた。 おしまい 2008年8月9日 保田ゆきの この二人を書いてるとほんと楽しい! |
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