リオンさんがわらったんです。嘘だとお思いでしょうが、まぎれもない事実です。
 私だって、まだ、ちょっと、自分の目を疑っています。だってあのリオンさんがですよ?嘲笑でもなく、ほんとうに楽しそうに、高らかにわらったのです。
 私、ちょっぴり、目頭が熱くなりましたわ。
 なんて、失礼ですね。本当に失礼。反省いたします。

 ルーティさんが仕組んだのです。
 きっかけは存じません。マリーさんとぽつぽつ小声で話していらしたのは、気づいていましたが。私に気づき、
「フィリア、もしかして聞いてた?」
といわれたので、
「いいえ、聞こえませんでした」
と正直に申しました。
 ルーティさんは笑って、
「今日の夕食、楽しみにしてて」
と言いました。

 先に、平たく計画の内容を言ってしまうと、笑いダケをこっそりリオンさんに食べさせようという、最低極まりないものなんです。”笑い”ダケなんて名ばかりで、ただ神経毒によって顔が引きつるだけ、と、おっしゃりたい方もいらっしゃるでしょうね。そのあたりはファンタジーの世界なので、まあ、あるんですよ、本当に笑っちゃう笑いダケ。遊び心のある世界なのですわ。
 そして計画は夕食の場で決行されました。リオンさんは見事にキノコをぱくついておられました。ただ、どんなおいしいものを食べてもまずそうな顔をする方なので、味がどうだったのかは分かりませんが。
「っく、くくく……」
 リオンさんがとつぜん笑い出したので、場の空気はいっぺんに凍りました。特にスタンさんなんて、立ち上がってリオンさんのもとへ駆け寄り、「どうしたんだリオン」なんて心配そうに顔を覗き込んでいました。
「あーっはっはっは!!」
と先に笑ったのはルーティさんでした。リオンさんも高らかに笑いながら、
「きさま、ふ、はは、なにか知ってるな、……っ」
とルーティさんをにらみつけていました。ルーティさんはお腹を抱えて笑っています。
「笑いダケの効果は絶大だな」
と、マリーさんがあっけらかんと言い放ち、スタンさんの目がまんまるになりました。
「そんなのリオンに食べさせたのか!?」
「ああ」
「ああ、って、マリーさん……!」
「だが、ルーティだって食べたのだから、おあいこだ」
 その言葉に目を丸くするのは、ルーティさんでした。
「マ、マリー、あ、あんた、ねえ!?」
「ふふっ。だって、リオンだけ笑っていたら、かわいそうじゃないか」
 どうやらルーティさんの知らぬところで、マリーさんが機転を利かせたようでした。さすがですわ。私もつい笑ってしまいました。リオンさんは笑いすぎて目に涙が浮かんでいます。彼はいままで生きてきて、こんなにも笑ったことがあったのでしょうか?シャルティエさんが絶句しているのを見ると、きっと、はじめてだったんでしょうね。
 そう思うと、なぜだか、目頭が熱くなってしまいました。



 リオンさんといえば、あの笑顔が頭に浮かびます。
 さんざん悪く言われ、軽くあしらわれ、時に認められもしながら、いっしょに旅をしましたわね。厳しい人でした。さいしょはとても怖かった……。
 でも好きでした。
 同じ人間として、愛くるしくてたまらなかったのです。
 神が愛するのはあなたのような人です。
 あなたのような人です……。

おわり






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