ああ、あまりに熱い。
 熱くて、それだけしか、もう、考えられないじゃあないか。こんな屈辱はない。けれど熱い。あつくてたまらない。
 なにもあけわたす気などなかった。
 このおれの、声も、あせも、心も、からだも、なにひとつとしてくれてやる気などなかった。
 けれどおれが流した、たったひとつぶの涙、それを、まるでたやすく、なんの障害もなく、ぺろりと奪われてしまって、それからおれは、もう、かなわないのだと悟った。
 かなわないのだ。
 この男にはもうかなわない。
 おれはこの男に服従し、この男はおれを支配するのだ。
 それはこれから先、何が起こっても、変わることなんてない。
 おれは貶められた。

 手を、
 手をとられた。
 手首を折られる、俺はなんとなしにそう思った。けれどその男は無機質な左手のさきで、おれのうでを、手首から、ゆっくり、ゆっくりなぞっていった。ぷくりと血がふくらみ、ほんのすこし、流れた。男はそれを舐めた。手首から、ゆっくりと、舐めとっていった。そして二の腕のうらがわに唇をつけ、痛みをともなうほどに、強く吸った。白い肌に赤い跡がふくりと浮かんだ。
 手首からの傷は、みみずばれになっている。それを辿ると、この、悪趣味な赤い跡にいたる。なんと傲慢なことか。そこまでにおれを貶めるか。このおれを痛めつけ嬲るか。
 おれは、はじめて声をあげた。声だけは、くれてやる気はなかったのに。けれど、このあまりの屈辱に、おれは声をあげずにいられなかったのだ。
 この男は、心からうれしそうな顔つきで笑った。ああまたひとつ支配された。おれは涙をまたこぼした。男はふたたび、うれしそうに笑う。

 この男の行為がきわめて露骨になるころ、おれは、もう、熱に浮かされている忌むべき愚者であった。
 ただただ醜悪なだけの存在であった。


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